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山口地方裁判所 昭和30年(ワ)206号 判決 1957年12月17日

主文

被告両名は連帯して原告に対し金十五万円及びこれに対する昭和三十年十月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求は之を棄却する。

訴訟費用は四分し、その三を被告両名の連帯負担としその一を原告の負担とする。

本判決は原告勝訴の部分につき原告に於て担保として各被告に対し四万円を供託した場合には当該被告に対し仮りに執行することができる。

事実

(省略)

理由

先づ原告はその主張の日時場所に於て被告両名から不法監禁の上強姦され、顔面等に傷害を受けたと主張するに対し被告井上信一は性交の事実は認めるが、それは原告の金銭欲に基くものであると主張し被告坪倉正三は原告の黙示の同意に基き性交を為したものであると主張するのでこの点につき判断するに、

成立に争のない甲第一の一ないし三、第二の一ないし五、第三の一ないし五、第四号証によれば次の事実が認められる。即ち、被告両名は山口市役所労政係の自動車運転手として勤務していたところ、昭和二十九年一月十六日夜から翌十七日にかけて両名は遊興飲酒の末帰宅すべく、市役所の貨物自動車を被告前田が運転し被告坪倉が助手席に坐り同月十七日午前一時頃山口駅前通りを毎日新聞支局前路上に差蒐つた折道路右側を原告が駅方面に歩行しているのを見付けたが、両名は飲酒酩酊していたので若い女性の原告に対し悪戯をしたい衝動に駆られ、被告吉野に於て被告井上に対し「あの女は何処に帰るのか聞いて見い」と申向け、被告井上は之に応じ自動車が原告の横を通り過ぎる附近に停車し、窓を開けて車内から原告に対し「貴女は何処へ帰つてゞすか」と尋ねたところ原告が「御堀まで帰ります」と答えたので「私もあの方に帰るから乗りなさい」と誘つた。原告は右申出を一応は拒つたけれども当夜夜遅くなつて小雨も降つていたので被告等の申出を好意として受取り乗車させて貰う気になり、車の後方から車の左側のドアに廻つたところ、被告坪倉に於て降車して原告を先に迎え入れ、原告を中に挾んで発車進行した。間もなく被告坪倉は助手席に隣合つた原告に対し劣情を催し右手で原告の腰を抱きかゝえ左手で同女のスカートを捲つて悪戯を始めたので原告は貨物自動車が山口駅前を過ぎた頃鰐石橋手前で降ろして欲しいと頼んだが鰐石橋に近づいた頃から被告両名は共謀の上原告と姦淫しようと考え、被告前田は自動車を停車するどころか却つて速度を加え、原告宅前を通過する際原告が重ねて降ろして欲しいと哀願したのに尚之を無視して大内村矢田方面に疾走させ、仁保村の丸山に差蒐るや被告井上は運転を停め、助手席に於て被告坪倉に姦淫の目的を遂げさせる為燈火を消して車外に降りたが折から自転車の燈火を認め市役所の貨物自動車である為同人等の非行が露見することを畏れ、再び進行して同村横谷峠に至り、被告坪倉の合図で停車し前同様被告井上が下車しその間被告坪倉は両手で原告を無理矢理にシート上に押倒して押えつけ、両足の中に割り込み原告の抵抗を抑圧した上強いて姦淫し、次いで車外で待機していた被告井上が入れ替つて右運転台に於て前同様の方法で以て同女を強いて姦淫し、更に同日午前四時頃右自動車を疾走させて同郡大内村御堀の山口県綜合運動場南通称出合河原に赴き、同所に停車させた上前同様被告井上に於て車外に下り、被告坪倉はその間停車した車内運転台に於て前同様の方法を以て再び同女を強いて姦淫し、被告井上は被告坪倉が原告を強姦した後原告が徒歩で逃げ帰ろうとするのを後から追いついて引倒し、馬乗りになる等の暴行を加えて再び同女を強いて姦淫し、原告に対し治療約一週間を要する顔面刺創及び右膝関節部皮下出血の傷害を負わせたことが認められ乙第一号証第二号証の一、二第三、四号証中右認定に反する部分は採用し難い。そして右認定事実に徴すると原告と被告等両名との各二回に亘る性交は双方の合意に基くものではなくして被告等の暴力に基く不法行為であつて原告の蒙つた前記傷害も直接には被告井上から強姦される時受けたものではあるが、被告両名が犯意を相通じて為した強姦行為に起因するものであつて被告両名の共同不法行為の責任は免れられないから被告両名は原告の本件被害による精神上肉体上の損害に対し連帯して賠償しなければならない。

よつて、慰藉料の額について審究する。本件被害の態様を検討するに、被告等両名は前記認定の如く夫々家庭を有し乍ら夜半飲酒酩酊の上前記自動車に乗つて帰宅する際偶々前方を歩行する原告を見つけ、同人が若い女性である為悪戯をする気持を生じ好意を示す如くあざむいて原告に乗車をすゝめ好意を誤信した原告を被告両名の間に坐らせ、身体の自由が利かないのを利用して に酔余の慰みとして弄び更に劣情を催し、原告の哀願を無視して降車させず却て疾走させて、山中、若しくは人気のない附近の道路上に停車し、車内若しくは車外に於て交互に強いて姦淫し、その結果前記認定の如き傷害を与えたものであり、之等の事実よりすれば原告が著るしい侮辱を受け終生拭うことのできない精神上の打撃を受けたことは容易に首肯できるところである。

而して、前掲各証拠によれば原告は当時二十一才の未婚の女性であつて現在山口市役所水道課に勤務する父幸次と自宅に於て田五反位を耕作している母シヅエの長女であるが昭和二十四年中村高女を卒業し同年山口県庁用度課に勤務し、同二十七年三月縁談があつた為一旦退職し結局右縁談が纒まらなかつたので同二十七年五月頃から海田タイピスト講習所に通い同年九月山口市下清水の光石建設会社に入社し、同二十八年一月解散となつた為その後同年六月まで甲子園パチンコ店に勤務し一時家庭に於て農業を手伝つていたが同二十九年一月九日から山口市大市のパチンコ店大市会館に勤務するようになり本件被害は同パチンコ店の仕事を終えて帰宅の途次受けたもので本件により勤務が夜遅いことに恐怖感を懐くようになり右仕事を辞めさせて貰つており、一方被告井上は早稲田大学専問部夜間部を卒業しその後勤務先を転々とした末昭和二十八年十一月三十日より山口市役所福祉事務所労政係の自動車運転手を勤め、月収約一万円で家庭は妻がパーマネントを、義母が食料品小売店を各経営し先妻の子と長男を抱え生活は余裕があり、又被告坪倉は鴻城中学校を家庭の都合で二年中退し、その後勤務先を変えた末昭和二十八年一月に山口市役所の運転手として雇われ、被告井上と同様同市労政係所属の貨物自動車を運転し、月収手取一万三千円で本籍地には家屋敷一軒、現住所に田地五反余山林四、五反を所有し、家庭は実母、弟二人、妹一人、妻、子二人の八人家族で中等程度の生活を営んでいることが認められる等諸般の事情を綜合勘案すると原告の蒙つた精神上肉体上の苦痛を慰藉する為には、金十五万円を支払うのが相当と認めるから被告両名に対し連帯して金十五万円と本件訴状が被告等に送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和三十年十月七日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による損害金の支払を求める範囲において之を認容し其の余の請求は失当であるから之を棄却すべきものとし訴訟費用の負担については民事訴訟法第九十二条本文第九十三条仮執行の宣言については同法第百九十六条を適用した上主文のとおり判決する。

(裁判官 竹村義徹 田辺博介 原田直郎)

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